メール
sodan@jiritusien.com
 HOME>メディア>「PAC21」2008.01掲載記事

■存在を抱きしめる

あけましておめでとうございます。
振り返ってみれば、私が「あなたの子どもを加害者にしないために」を出版した年2005年の11月から寄稿させていただいて丸2年が経ち、3年目に入るのですね。早いものです。今後ともご指導ご鞭撻を頂きながら精進して参りたいと思いますので、本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

さて、今回は「モラハラの手引き(2)」を書く予定でしたが、年頭に当たってこの2年間を少し振り返ってみようと思います。
06年はドクハラやアカハラなどハラスメント用語が急増し、バイオレンス(肉体的暴力)やモラルハラスメント(精神的暴力)の現象があらゆる層、あらゆる職種に蔓延していることを示しました。

暴力の本質は、ディスカウント。
つまり、人を人扱いしないと言うことです。
硬く言えば「人権無視」−人としての尊厳が侵害されていると言うことです。

例えば現在の「労働者派遣法」は、「必要な時に、必要な人を、必要なだけ」という「(トヨタ式)部品の調達方式」を人間にまで当てはめた非人間的な法律です。人をディスカウントすることを「許可」した法律といってもよいでしょう。この法律によって、労働者は完全に"道具"として位置づけられることになりました。"働く"という社会の根幹をなす部分で人間の尊厳は踏みにじられました。その結果、ワーキングプアやネットカフェ難民が現れて社会基盤は崩壊しつつあります。

一方、労働に"階層"ができたことは正社員に対する転落圧力となって成果主義や能力主義で追い立てられることとなりました。人々は、日常的に「努力せよ」「急げ」「完全であれ」というドライバーに駆り立てられるか、マイナスのストロークやディスカウントを受け続けることになったわけです。

会社が社員を道具にすれば、社員は顧客を道具にします。
規制緩和の潮流に乗って一世を風靡したホリエモンは「勉強不足は騙されても文句が言えない」という言葉で法律の盲点を突くことを是とし、「自己責任」という言葉が後押しして「騙される方が悪い」という風潮が蔓延しました。

人が道具扱いされているということは、モラルが失われているということです。
モラル無き利潤追求の結果、「耐震偽装」「偽装請負」「偽装牛肉」「賞味期限偽装」「表示偽装」「振り込め詐欺」に至るまで、人を騙して金儲けをすることが商売の一つの手法となってしまいました。
07年の「今年の漢字」が「偽」となったのは象徴的でした。


人が道具扱いされ、人間の尊厳が傷つけられたときに出てくる感情が「怒り」です。
小学生の校内暴力が過去最多になったことが報じられた翌年の07年には「キレる大人」や「モンスターペアレント」が登場し、社会に追いつめられた大人たちが子供や学校など、自分が強くなれる対象に向かって怒りを吐き出す現象が顕在化してきました。今や日本は、上から下まで怒りに充ち満ちた国になっています。

そして、家庭内における怒りは、兄が妹をバラバラにして殺す(06年末短大生遺体切断事件)という事件を産み、そして07年末には無差別殺人(佐世保のスポーツクラブ銃乱射死傷事件)が起こってしまいました。政治が一人一人を大切にする方向に向かわなければ、社会や家庭の混乱はますます深まっていくでしょう。政治を変えていかなければなりません。


私たちは私たちでできることをしましょう。
ここまで人の存在や命が軽んじられている社会にあって、まず家庭を守らなければなりません。
今こそ、家庭におけるストローク(相手の存在を認める働きかけ)が大事な時代はないと思います。

特に次の2つをご家庭で実践していただければと思います。
それは、「聴く」ことと「抱きしめる」こと。

聴くことは、その人の重たい心を空にして身軽にしてあげること。
抱きしめることは、その人の存在が確かであることを保証すること。


この2つだけで人は自信を得、不安な社会を生き抜く勇気を持つことができます。
一人の方も自分の気持ちを聴いて、それを表現してください
そして、自分を抱きしめてあげてください

自分の存在が大切なものであることを「実感」するところから、すべてを始めましょう。




【目次へ戻る】