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 HOME>「元気なお父さんづくり応援ブック2007」座談会

■元気なお父さんの「働き方」と、妻や子への「関わり方」とは?

社団法人日本家庭生活研究協会では、文科省推薦「元気なお父さんづくりプロジェクト」の一環としてシンポジウム、ワークショップ、情報発信を行っています。本記事は、父親の家庭参画促進、元気なお父さんづくりのディスカッションを行ったときのものです。
(この他にワークショップを行いました ^^)
●松田茂樹
第一生命経済研究所副主任研究員。慶應義塾大学大学院社会学研究科社会学博士。現在、第一生命経済研究所副任研究員として、ワークライフバランスや子育て支援の研究に従事。05年東京大学社会科学研究所客員助教授、06年国際基督教大学非常勤講師なども務める。著書に『対等な夫婦は幸せか?』(勁草書房 )などがある。一男一女の父、36歳。
http://group.dai-ichi-life.co.jp/cgi-bin/dlri/ldi_watching.cgi


●楠本修二郎
カフェカンパェー株式会社代表取締役社長。早稲田大学卒業後株式会社リクルートコスモス入社。1993年大前研一事務所入社後、平成維新の会事務局長就任。1995年マーシーズ株式会社取締役副社長、1999年スタイル・ディベロップ株式会社代表取締役を経て2001年コミュニティ・アンド・ストアーズ株式会社(現カフェ・カンパニー株式会社)を設立代表取締役社長就任。WIREDCAFEなど21店舗を展開。
http://www.shibuyabunka.com/keyperson.php?id=4
http://www.foodrink.co.jp/backnumber/200701/070112.php

●山田博
NPO法人フアミリーツリー代表/コーチ。1964年東京都生まれ。1987年東北大学教育学部教育学科卒、同年株式会社リクルート入社。CTIでコーアクティブコーチングを習得し、2003年、CPCCを収得。2004年独立、2005年にNPO法人フアミリーッリーを設立。現在は、バーソナル・コーチングと、家庭が本来持っている、人を育む力=「家庭力」の再生を目指した各種ワークショップやキャンプなどの活動を展開中。

●中尾英司
家族カウンセラー/シニア産業カウンセラー。協和発酵での組織改革の成功事例を「あきらめの壁をぶち破った人々」として出版し独立。その後、少年A(酒鬼薔薇)の深層心理を解き明かした「あなたの子どもを加害者にしないために」を出版。不登校、虐待、引きこもり、窃盗癖、ギャンブル依存、DV、などの問題を抱える家族を訪問カウンセリングしている。産業カウンセラー試験作成委員(2006)、テレビ東京、TBSに出演。

●西田陽光
社団法人日本家庭生活研究会常務理、「構想日本」運営委員・バブリシティー担当ディレター/財団法人まちづくり市民財団理事/地域・資源学会理事

松田:今後、「元気なお父さんづくり」のためにどうすればよいのか、父親の働き方、子どもとの関わり方などについて議論していきたい。まずは「何が必要」で「どこが欠けているか」など、みなさんの実体験にもとづいたご意見を伺いたい。

中尾:父親の働き方がこの7年間ほどで90度後ろにずれて、以前の午後6時が今は午後9時になっている。時間制限があるから工夫が生まれ効率が上がるが、現在は効率が非常に悪い。
また、変化の激しい日本は世代(5-6年)ごとに価値観が違うが、企業でも官公庁でも、高度成長期を生きた50代以上と低成長期を知っている40代以下の価値観が全く違うため 組織内のマネジメントも機能していない。現在経営層の50代以上は、相変わらず押しつけ型の組織運営としているが、その時に、下(中間管理職)が「なぜ?」を問い返せば経営者はそこで初めて考えるチャンスを与えられるのだが、下が唯々諾々と受けて部下に押しつけるだけなので経営が鍛えられない。「あれもこれも」することができた高度成長時代の経営スタイルのままだ。

低成長時代の経営は「あれかこれか」の「選択と集中」をしないと経営も立ちゆかないのだが、「言われたことを黙ってやるのが男の甲斐性」という価値観の団塊の世代などは上から下ヘレスポンシビリティ(個人責任)を問うだけで、下から上へのアカウンタビリテイ(説明責任)を問わない。だから経営が育たない。そして、その押しつけられた仕事は働き盛りの30代にしわ寄せがいっている。

大学入試に見るように、 日本は入口にはいるまでは厳しいが、一度入ってしまうと野放しの社会。管理職も同じ。管理職になるまでは査定が厳しいが、一度なってしまうと後は野放し。その最も査定がきつくなる管理職手前の30代にしわ寄せがいっている。そのため30代のうつ病や自殺が多い。実際 新橋周辺を歩いている男性を見ていても表情が暗い。男性がすり減ってきているなぁと感じる。


■仕事でもつながり感が感じられるかが鍵

山田:本来、「ハードな労働」イコール「消耗」ではないはず。ハードに働いても、すり減る場合とエネルギーが漲る場合がある。すり減るのは人と人との「つながり」が感じられず孤独や虚しき、絶望感を感じる時ではないか。父親個人に何かが欠けているのでなく、人との「つながり」の問題だと思う。
先日、森の中でワークショップを開いたが初日は皆「何をすれば?」という状態でソワソワしているけれど、3日も経つとだんだんと落ち着いてきて「ホッ」とする。つまり、自然を通して何かと「つながっている」という感覚を取り戻せたのではないかと思う。

榎本:以前 リクルートに勤務していた時、朝7時に出勤し、昼から翌朝2時頃まで弁護士と打ち合わせをするような生活だったがすり減らなかった。弁護士は、「おまえみたいな奴っているんだよ」と言われたが 自分が磨り減らずにすんだ理由は、自分が仕事をすることが、会社にとってどういう意味があるのか、自分が尊敬する上司と一緒に達成しようという「つながり」を感じられていたからだと思う。
そういう経験もあり 現在の社員に対しては「琵琶法師大作戦」で、マニュアルでは伝わらないことを自分の口で語り続けるようにしている。自分が本当に語れるのは30人が限界。社員は400人ぐらいいるが、視線を合わせて話ができるのは100人ぐらい。その100人の中で本当に語れるメンバ−ができればいいと思う。そうした「共有」が「つながり」ということではないか。

仕事で生き残るのは大変なことだが、
@その仕事を通じていかにチームに貢献できるかということ
A仕事を通じて自分のためになるようにすること、
B Aを認めてあげることが大切。
そうでないと、社員は感じようとしない。「おまえ 感じろよ」というのはおかしな話で、「感じろ」と言っても感性は膨らまない。
仕事は四の五の言わずにやれ!と言っていいと思うが、それを超えた後は、「つながり」や自分の「学び入れ」などを大切にしてもいいのではないか。それが現在、世代間格差の大きい縦割り組織の中で見失われているということだと思う。そのために、日本の父親がエネルギーを失っているのだとしたら、 日本の活力の利用という観点からもつたいないことだと思う。

西田:企業規模によっても異なると思う。業種、分野によっても様々な違いはあるとは思うが、個人が自分の人生をイニシアチブを発揮して生きていくことが大事であり、様々な人生の中で起きてくる諸問題に対し、どんなとらえ方をするかが大きな分かれ目になると思う。

楠本:今の20代はカフェ好きで、カフェで働きたいと面接にくるが、話すうちに「実は立ち仕事でしんどい」ということがわかってくる。ダメな者はそこで脱落していくが、残った者は「忍耐」や「我慢」を獲得していく。全体の傾向として 高学歴、高偏差値の者の方が諦めが早い。また、ライブドア事件で象徴されるように安易にものごとが達成されることを望みがち。
こうした忍耐力に欠けるオトナが形成される原因のひとつは、子ども時代にある。子どもが「公園デビュー」すると そこには既に保護者によって「秩序立てられた人間関係」が存在する。PTA活動などでもなるべく突出しないように全体調和や均質さを重視する雰囲気がある。大人とその子どもの間で形成される世界のなかで、標準化されたまま育ってしまうという現実。だか
ら、ケンカや競争を通じた切磋琢磨、負けじ魂が育たないのではないか.


■まず妻の話を聞いて相互理解することから

松田:それでは次に 家庭の中の父親の姿についてはどうか? 私が行っている分析から見えてくるのは、とにかく男性の長時間労働。時間という量的側面で家庭への投資が少ない一方、質の面でも欠けている部分がある。

山田:私が会社勤めとしている頃もそうだったが、激務を強いられる夫が深夜帰宅するときっそく妻が話しかけてくる。だが 夫は疲れているから それをうまく聞き流す。妻からのプレッシャーは大きかったが 帰宅直後の自分も心身に余裕がないから、聞きたくても相対せない状態だったし、妻もストレスがたまる。一方、まだ幼い子どもはまだ自分の感情や言い分を整然と説明できないから、子どもに何が起きているのか、はこちらがよく観察しないと 受身ではわからない。そのうち、相手がどういう状態にあるのか 家族の様子を観察する余裕がないと家庭内が殺伐とすることに気づいた。
ただ、妻に激しく抗議されてもどう対応したらいいのかわからずただうろたえるだけだった。妻は、夫に自分の話を聞いて欲しい。夫も、本当は妻の話を聞いてあげたい。でも、それができないまま進んでしまうところに悲しさがある。これは、父親の余裕のなさが生み出している現象だ。

中尾:自分のところにもそういった相談が多い。そうしたクライアントには 2週間に1度でもいいから ファミリーレストランにでも行って父親が家族の話をしっくり聞くようにとアドバイスする。ファミレスを家族の話を聴く無礼講の場にしてしまうわけだ。人は時門と空間を区切られると腹が据わる。続けることによって 妻の気持ちの負担が軽くなり、子どもの不登校が治つた事例があった。

それから、夫が仕事から帰宅したとたんに妻が話しをしようとする場合は 「今は疲れているから1時間だけ待って」と、時間制限付きで頼めば、妻はちゃんと待ってくれる。期限がなければ我慢できないが、期限があれば人は待てるものである。それが自分も相手も大事にするアサーティブな対応の仕方だ。

もう一つは、相手の言葉で気持ちのこもっている部分などをオウム返しにしながら気持ちを聴いてあげると良い。人は1'実期係を把握してアドバイスしようとするが、アドバイスは必要ない。
長年のしがらみの中で 「夫は話を聴く耳を持っていない」と思いこんでいる妻も多い。チャンスを捉えて「話を聴く耳は持っているのだ」ということが理解できれば、妻は気持ちが楽になって変わり始める。

松田:日本では昔から 自分の気持ちをあまり言葉に出さなくても相手に通じるものだと言われているが そうではない?

中尾:それは違う。気持ちは言葉や行動に表さなければ伝わらない。ただ 自分も会社勤めをしている頃、平日に家族に接する時間がない分を土日にカバーしようと、母子のやりとりに対して日出ししたら総スカンを食った。
でも、1週間家族と一緒にいて様子を見ていると、口出ししなくてもいいのだということがわかってくる。そうやって様子をみた後で口出しすると、今度は聞いてくれる。
襖と障子の文化が優れている点は、聞かないふりができるということ。襖の向こうにいる妻と子どもの話を、自分は黙って聞かないふりをしながら、実は聞くことができる。様子を見ることができる点が、ドアやガラスの文化とは違う優れた文化だと思う。

楠本:自分は 妻の話に対してロジカルに答えなければいけない、聞かれているからにはきちんと答えなければいけないと思い込み、それを言い続けていた時期があったが、その頃が最悪の状態。お互いの歯車がかみ合わないという感じだった。ある時妻の話を聞いていて「なるほどねえ」と相づちを打っているうち、相手がにこにこし始め、こちらもにこにこして終わったということがあった。その時、自分はまず聞くことが大切で、相手は意見を求めているだけでないときもある、ということを知つた。仕事ではよくあることだが、家庭に入ると僕自身も余裕が無くて、そういう理解をしてあげられなかったんだと思う。

父親に余裕がなくなり 、母親は育児ストレスが増大している今日、歯車がかみ合わない時というものは どの夫婦にもあるものだと思う。 そういう時、同じような経験を持った周囲の仲間が「自分もそうだったのよ」というひと言を、人間関係の中で助言を与えるということが重要ではないか。そういった意味では今後のおしいちゃん、おばあちゃん(団塊世代)の役割も大切。豊富な経験を新しい親世代や会社の次世代リーグー達に継承し、安心感を与えると言う意味で。そして 会社も単なる「仕事場」ではなく社員やそのファミリーを仲間としてとらえ、中立的に相談に乗り、健やかに育てていく一種のコミュニティの場となるべきだ。

松田:おそらく日本特有の現象だと思うがいまは母親の育児不安・ストレスのレベルがとても高い。これをどうやって引き下げていくかということが私の分析テーマの一つだが、一番効くのはやはり夫の育児参加だろう。その場合 「時間」の長短より「協力」の内容が大切だ。「協力」とは 困った時に相談に乗るとか 子どもの遊び相手をするとかちょっとしたことでもいい。日本の父親に欠けていたのは この「ちょっとした協力」なのだということを 今後、社会に訴えていかなければいけない.
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